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今昔の歴史と文化 暮らしが織りなす、国内随一の近世港町「鞆の浦」

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古民家との出会いが生んだ
鞆の新しい暮らし

2026.03.10
伝統文化継承 情報発信

鞆まちなみ再生活用相談所につながる取り組みをきっかけに始まった古民家の保存活用

鞆の浦では、町並みの保存と空き家の活用を進めるため、寄附によって支えられている「鞆・一口町方衆」の取り組みが続けられています。寄附金は、町並みの修理・修景や空き家の保存活用、そして物件と人をつなぐ「鞆まちなみ再生活用相談所」の運営などに活用されています。

今回紹介するのは、現在の鞆まちなみ再生活用相談所が立ち上げられようとした時期に、物件とのご縁が生まれ、古民家を修理・修景しながら新たな暮らしの場として受け継がれている一つの事例です。

鞆に根付いた暮らしを実現するための物件との出会い

東京から鞆の浦へ移住した長田涼さん果穂さんご夫妻は、地域に根付いた暮らしを続ける中で、将来的に店を持つことも視野に入れながら鞆での住まいを探していました。

そうしたタイミングで現在の「鞆まちなみ再生活用相談所」につながる取り組みを知ることになります。

長田さんがこの取り組みを知ったのは、もともと知り合いだった担当者から、新しい取り組みが始まることを知らされたことがきっかけでした。

当時はまだ相談所の体制が立ち上がる前段階でしたが、移住者のネットワークを通じて「物件がある」という情報が届き、長田さんはすぐに手を挙げました。

後にその物件は、鞆まちなみ再生活用相談所の初期の事例のひとつとして扱われることになります。

長田さんにとって助けになったのは、物件情報を得られたことでした。鞆に根付いた暮らしを続けたいと考えていても、実際には地域の中で流通している物件情報に出会うことは簡単ではありません。

そうした中で、ネットワークを通じて「物件がある」という情報を得たことが、今回の古民家との出会いにつながりました。

紹介された建物は、鞆の町並みの中に残る古民家です。長田さんは、この家を単なる住まいや店舗の候補としてではなく、「もともと鞆にあった家を継ぐ」という意識を大切にしながら向き合ってきました。

新築に建て替える選択肢もなかったわけではありませんが、それでは鞆で暮らす意味や、この場所を引き継ぐ意味が薄れてしまうと感じたといいます。

地域の歴史や文化を受け継ぐことも、この家を活かすことの大切な一部だと考えたそうです。

住めるようになるまでの3年間

一方で、この建物を実際に活用できるようにするまでには、長い時間と多くの手間がかかりました。

物件は重要伝統的建造物群保存地区内にあり、改修にあたっては文化庁や市の文化振興課との調整、申請手続きが必要でした。

契約から実際に住み始めるまでには約3年を要し、その間、長田さんは別の住まいで暮らしながら準備を進めていきました。

建物内部には、かつての暮らしの痕跡がそのまま残されていました。流しには食器が残り、カレンダーは2011年で止まっていたといいます。

まず必要だったのは、生活用品や残置物を自ら運び出し、建物をスケルトンの状態にすることでした。

処分にも多くの時間と労力がかかりましたが、できることは自分たちで行いながら、一つずつ建物と向き合っていきました。


つながりを大切にした家づくり

改修では、「つながりを大切にした家づくり」を意識したといいます。

設計は友人の建築士に依頼し、施工はその建築士とつながりのある福山市内の工務店が担当しました。また、浴室以外の壁と天井はすべてDIYで漆喰を塗り、全国から集まった約30名の友人たちが作業を手伝いました。

数時間だけ参加した人もいれば、数日間滞在して作業した人もおり、多くの人の手がこの空間づくりに関わっています。

こうして完成した空間は、単に改修された家というだけでなく、多くの人との関わりの中で生まれた場所となりました。

素材選びにも工夫があります。

壁紙ではなく漆喰を用い、床には人工的なフローリングではなく無垢材を採用しました。

解体時に出た端材もなるべく活用し、階段材や床板は土間のカウンターとして再利用しています。

使える建具も残し、建物がもともと持っていた要素をできるだけ引き継ぐ考え方が貫かれています。

まちと暮らしをつなぐ土間空間

土間空間については、店舗であると同時に、まちとプライベートの間をつなぐ縁側のような場を目指したそうです。

完全に開かれた場所でも閉じた場所でもなく、自分たちの家でありながら、鞆で暮らす近所の人たちともゆるやかにつながる空間。そのようなバランスを意識しながら整えられました。

2026年3月中にはパン屋としてプレオープンいたします。

観光客向けだけでなく、地域の人が日常的に利用できる店にしたいと考えられています。まさにコミュニティとしての役割もここで果たせそうです。

町並みに調和する修理・修景

外観についても、この建物の保存活用を象徴するポイントがあります。

現在の姿は、単に古い意匠を残したものではなく、文化庁の指導のもとで地域の歴史的景観に沿うよう修理・修景されたものです。

瓦や外壁の仕上げなどにも一定の基準があり、その条件を踏まえながら整備が進められました。

結果として、建物は鞆の町並みに調和しながら、新たな暮らしと営みを受け入れる場へと再生されています。


文化と暮らしが残る町だからこそ

長田さんは、鞆の本質的な魅力は「文化や暮らしが残り続けていること」にあると感じています。

人工的につくられた景観ではなく、可能な限り残していこうとする意識が町全体に流れており、その積み重ねが独自の魅力につながっているといいます。

だからこそ、この地域資源を活かす際には、その背景にある文化や人、暮らしに対するリスペクトが欠かせないとも話されていました。

特に事業者という立場で地域に関わる場合、その姿勢は大前提になると感じているそうです。

物件との出会いが生んだ新しい活用

今回の取り組みは、移住者のネットワークを活かして、物件と出会い、その後、長い時間をかけて古民家を修理・修景しながら、暮らしと営みの場として受け継いた事例です。

物件との出会いをきっかけに、長田さんご自身や多くの仲間たちの手によって建物は少しずつ整えられ、今では新しい暮らしの拠点となっています。こうした一つ一つの積み重ねが、鞆の町並みの中で古い建物を活かしながら暮らしをつないでいく姿の一例となっています。

現在、「鞆まちなみ再生活用相談所」では、空き家の所有者からの利活用相談や、鞆での暮らしを希望される方への物件紹介、伝統的建造物などに関する補助や現状変更申請についてのサポートを行っています。今回紹介した取組のような、物件との出会いが実現するよう、『鞆・一口町方衆』でみなさまからご支援いただいた寄附金を活かして、取り組んで参ります。