空き家と移住者希望者をつなぐ『鞆まちなみ再生活用相談所』
潮待ちの港として栄えた鞆の浦には、今も江戸期の港湾施設やノスタルジックな町並みが色濃く残り、国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定。建造物だけでなく、伝統的な神事や祭りなどの歴史・文化が受け継がれ、多くの人を惹きつけています。
少子高齢化や産業構造の変化などにより空き家の増加が社会的な問題となるなか、鞆町内においても空き家の増加は進み、伝統的な町並みや地域の歴史・文化を守っていく上で大きな課題となっています。
その解決の一歩として発足したのが『鞆まちなみ再生活用相談所』。主に空き家の再生活用に関する取組と、伝統的建造物などに関する補助や現状変更申請についてのサポートを行っています。
『鞆・一口町方衆』でみなさまからご支援いただいた寄附金も、この『鞆まちなみ再生活用相談所』の運営やスタッフの人件費などに活用されています。寄附金の活用例のひとつとして、今回はこの『鞆まちなみ再生活用相談所』の取組をご紹介します。
伝統的建造物の修理相談や申請書類の作成をサポート
伝統的建造物などの修理、修景に関する補助制度や現状変更許可申請の案内をします。これまでは福山市役所 文化振興課まで行く必要がありましたが、鞆町内に窓口ができたことで、住民にとっては通いやすいのがポイント。令和5年度10月末までに85件の相談実績があります。
窓口で対応する一級建築士の佐藤さんに話を聞きました。
「雨漏りなど急を要する場合や応急処置が必要な場合に、本庁まで行くのは大変ですし、高齢で移動が難しい方もいらっしゃいます。また、申請書類が多岐に渡りとても大変なので、地元で気軽に相談できてありがたいと喜ばれる利用者がたくさんいます。なるべく住民の方と同じ目線に立ち、困り事に寄り添いながら対応しています」
空き家の所有者と移住者希望者を繋ぐ
空き家の所有者からの利活用相談や、鞆での暮らしを希望される方への物件紹介を行うのも『鞆まちなみ再生活用相談所』の重要な役割。令和5年度には10月末までに相談件数61件、空き家登録件数8件、成約件数2件の実績がありました。年に数回、空き家再生相談会などのイベントも実施をしています。
佐藤さんは「長年空き家を放置されてきた方も、町内に相談窓口があることを知り、とりあえず行ってみよう!と思ってくださるようです。ご先祖さまから受け継いだ大切な建物や自分が育った家を手放すことはとても勇気がいることで、そう簡単に割り切れることではありません。すぐに解決できることばかりではありませんが、話すことで、空き家やまちなみ保存に対するみなさんの意識が変わっていくような気がします」と話します。
昨今では、空き家の持ち主が市外や県外に暮らしていることも多く、「処分したい」「何とかしたい」と考えていても、どこに相談したら良いか分からないと言われることが度々あったそう。『鞆てらす』2階という分かりやすい場所にあることで、法事などのついでに立ち寄る空き家オーナーが増え、空き家情報を知りたい人やこれから移住を検討している人も、観光や旅行の最中に立ち寄りやすいと好評です。
リフォームなどが必要ですぐに住めない、家財道具がそのままで片付けが必要など、空き家に関する課題はさまざま。たとえ空き家登録したからといって、すぐに活用できるとは限りません。
とはいえ、大切なのは困ったときに気軽に相談できる場所があること。地域住民や観光客がふらりと訪れ、情報が集まる空き家や鞆の暮らしについて考えるきっかけになる、そんな場所になっています。