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今昔の歴史と文化 暮らしが織りなす、国内随一の近世港町「鞆の浦」

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平成30年度実施 伝統的建造物等の修理・修景

2019.09.27
修理・修景 実施終了

外装材を撤去し,壁に残る痕跡を元に腰板を張り,上部漆喰仕上げとして大正時代の外観に復原した。

建築された時期

明治時代

内容

屋根葺替え,外壁・外部建具修理

藤田 盟児先生(建築史家、工学博士)のコメント

○ 漆喰が落ちてスレートが貼られていた壁は,スレートの中の部分的に残っていた漆喰や腰板など古い壁の形態を確認し,腰板の部材や漆喰の仕上げなどにも拘って,かつての趣が忠実に再現されている。

○ 2階の窓は,材料を一部入れ替えながらひさしを支える部材など細部にもこだわった修理が行われており,古い窓の形や雰囲気が非常によく残されている。

〇 1階の窓は,後の時代になって生活のために開けられたものであるため,ひさしなどを付けず目立たない仕上げにしている。

○ 全体として,建物に残されている建築当初の姿や意匠,デザインをじっくりと観察して元の姿を見た上で,古くて建築史上も価値あるもの(デザイン,意匠)は,きちんと残す工夫が随所に感じられる。

○ 施工業者の方もよく相談されて,伝統的建造物の保存意義や古くて良いものを残そうとする施工方針など,今後の修理・修景を進めていく上で,見習うべき点の多い優良な修理事例である。

屋根下地を修理したのち本瓦を葺き替え,明治時代の屋根形状へ復原した。

建築された時期

江戸時代

内容

屋根葺替え,樋取替(銅製)

藤田 盟児先生(建築史家、工学博士)のコメント

○ 以前からグネグネとたわんでいた屋根を修理している。

○ 建物の特徴としては,土地が扇型(台形)で奥が狭くなっているため,屋根は前から途中まで平行だが,奥に行くと中心に寄せていく形になっており,鞆らしい特徴的な地割り(敷地の形)と建物である。

奈良・京都以外の地方では,長方形の街区は江戸時代に始まる。例えば,広島城下町などは,近世初めの設計で,長方形の街区で設計されており,建物も全て長方形で作られている。

この建物のようなゆがんだ建物の形を見ると,鞆に中世の地割りが残っていることが分かるし,このゆがんだ形が,長い歴史や昔の鞆の町の成り立ちを物語っている。

この建物の外観から,地形に合わせて湾曲した道,台形に曲がった敷地,それをそのまま今によく伝えている。

○ 傷んだ瓦を新しい瓦に変えているが,瓦を交換する際には,見えるところには古い瓦を残し,新しい瓦は見えない部分に固めている。

  1階の下屋(げや:1階に差し出した屋根)の瓦は,裏の大屋根の瓦から優良なものを表側に回して交換している。

○ 歴史的景観の中で修理する場合は,戦後出てきた材料はなるべく使わないこととしており,樋は,プラスチックを使わず銅製にしている。今は,ピカピカと光っているが,年月の経過とともに錆びて緑青となり周囲ともなじんだものになる。

○ 本建物は規模も大きく文化庁の単年度の補助限度額を超えることから,1階と2階の表側の建具については,後年度,修理を行う予定で進めている 。

下屋根を桟瓦葺きから本瓦葺きとし,明治時代の外観へ復原した。

建築された時期

江戸(左)、明治(右)

内容

屋根葺替え,外壁・外部建具修理及び構造補強,樋取替(銅製)

藤田 盟児先生(建築史家、工学博士)のコメント

○ この建物は,鞆の町家の特徴である連棟の建築様式で,2戸か3戸の家が一体となった建物で鞆らしい趣を出している。屋根や壁板の腐食が激しく,このまま放っておくとどんどん腐朽が進み厳しい状態だったものが守られた。壁板の古材と新材がなじむような施工や加工があれば良かった。

○ 2階の窓の左側の出格子の復元は,出格子が取り次いでいた穴や出格子の一部など,残った部材と痕跡を基に復元されており,昔の姿が蘇ったと言える。

アルミ建具を木製ガラス戸へ取替え,昭和戦前までの外観へ復原した。又設備機器類を移設したのち格子で囲い修景した。

建築された時期

大正~昭和戦前

内容

屋根葺替え,外壁・外部建具修理

藤田 盟児先生(建築史家、工学博士)のコメント

○ 2階の格子の状態が良かったので,弱っていた格子を支える部分を修繕してそのまま残すようにしている。

○ 2階の室外機は2階の格子の中へ,1階のプロパンガスは1階左側の格子の中へ入れるなどして,外観が昔の趣を保つようにしている。

○ 1階のサッシを木格子の扉にしているが,もう少し鞆の町家のデザインを取り入れても良かったかなと。今後も行うヘリテージマネージャーに対する鞆の町家の講座の充実を図りたい。

新築住宅の駐車スペース及び浸水対策として高基礎としたため,木製の門塀を設置し修景した。

内容

木製門塀設置

藤田 盟児先生(建築史家、工学博士)のコメント

○ 重伝建地区になる前に建てられた建物について,コンクリートの階段や基礎が見えないように修景されている。

○ 上と下の写真を比べると,塀が建つことによって,木造の歴史的景観地区であるという雰囲気が補填されている。

○ 塀のデザインにも拘り,鞆の浦にある板塀を参考にして設計されている。

年代

江戸時代

内容

床下,土台の白蟻駆除

藤田 盟児先生(建築史家、工学博士)のコメント

○ 昔に比べると,用水などの工事で道路が高くなることで,敷地が湿り,シロアリが発生しやすくなっており,目には見えないが,伝統的建造物を守るためにシロアリ駆除は重要なものになっている。

○ 木造建築の長寿命化を図ることができるし,長い目で見れば改修費用も抑えることができる。