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今昔の歴史と文化 暮らしが織りなす、国内随一の近世港町「鞆の浦」

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鞆の歴史を振り返る
(C)Nacasa&Partners
Story #1 後山山荘
瀬戸内海と鞆の町を見下ろす高台の別荘「後山山荘」。

医王寺へと向かう急な坂道を登る途中。門扉をくぐり、石段を上がったら目的地まであとひと息。鞆の浦を一望する高台に、一軒の邸宅があります。福山市出身の建築家・藤井厚二が、兄であり江戸時代から続く豪商「くろがねや」の13代当主である藤井与一右衛門のために建てた別荘を改修した「後山山荘」。

鞆のシンボルともいえる常夜灯や仙酔島、穏やかな瀬戸内海を見渡す美しい平屋の建物は、4年以上の歳月をかけて再生されました。

東京在住の現オーナーは、故郷である福山の海辺に釣りでもしながらのんびり暮らせる拠点がほしいとの思いを持っていたところ、2009
年にこの施設と出会ったそう。高台からの絶景と往時のすばらしい施設を想起はできたものの、すでに建物は瓦解して廃屋同然。できれば地元の建築家にお願いしたいとの想いからつながった建築家・前田圭介さんとの縁で、瀕死状態だった建物に新たな命が吹き込まれることになりました。

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建築家・藤井厚二の意思を受け継ぎながら改修。

後山山荘には、京都にある藤井厚二の自邸「聴竹居」と同じデザインのサンルームがあります。原型を留めないほどに崩壊した廃屋の中で、かろうじて残されていたのがこのサンルームで、藤井厚二の作品であることを明らかにする手がかりにもなった重要なポイント。天井の換気口など聴竹居との共通点が多く見られます。

設計図など建物に関する資料が何もない中、敷石を計測し、瓦礫の下に埋もれた部材を綿密に調査。現代の建築家・前田さんが藤井厚二と対話するように、その設計思想を紐解くように手がけた後山山荘の設計には約3年の期間がかかったそう。実際の施工も、歴史的な知見を持つ専門家のアドバイスを受けて古い土壁や瓦を再利用し、蔵の中に眠っていた建具を活用することで、藤井厚二が持つ本質的なスケール感を活かしながら進められました。

さらに、建物の西側に広がる庭園の再生は、前田さんの提案により学生ワークショップを実施。造園家・萩野寿也さん指導のもと、全国8大学から集結した20名の学生たちのサポートで1週間かけて完成しました。「参加した学生が、このような機会をくださり感謝していると声をかけてくれたんです。建築を通じ、世代や性別、職業を超えて人と人がつながる。その大切さと可能性を感じた瞬間でした」と語ってくれたオーナー。長い時間を経て、そしてさまざまな人の想いを受け継いで、後山山荘は2013年に竣工しました。

単なる復元ではなく、新たな命を宿して未来へと続く建築。

藤井厚二と前田圭介という2人の建築家が手がけたことで、昭和初期の建築と現代の建築を同時に見ることができる後山山荘。単に復元するのではなく、

建物東側の縁側は石畳の内路地にするなど現代的な要素も多く取り入れられています。内と外の境界をあいまいにすることで、自然と一体になるような心地良い空間を生み出すのは前田建築特有の世界観。

自然景観とともに、江戸期の伝統的建築の集積も鞆の魅力ですが、後山山荘に訪れると昭和初期および現代建築の魅力も味わうことができます。

居間には心地よい海風が吹き込み、穏やかな瀬戸内海に溶け込んでしまいそうな気分になります。刻一刻と表情を変える海とノスタルジックな街並みを眺めていると、時間が経つのを忘れてしまいそう。

建物西側を見れば、四季折々に変化する日本庭園が広がります。聴竹居と同様にモミジが植えられ、秋の紅葉はもちろん花々の移ろいを楽しむことができます。奥の木陰には「禽浴(きんよく)の滝」があり、時には水浴びする小鳥の姿が。

ここで特別な時間を過ごした藤井与一右衛門は、この別荘の趣きを「鞆八景」という漢詩に残しています。脈々と受け継がれてきた建物の歴史や文化、時を経ても変わらない美しい景色をより多くの人に体感してもらいたいというオーナーの意向で、後山山荘は一般公開され、音楽会などのイベントも不定期で開催。時代に合わせてさまざまな活用方法が検討されています。

歴史ある建造物を次世代へ引き継ぐために。

人口の減少とともに、空き家の増加や家屋の老朽化などにより、鞆の古い町並みは失われつつあります。「鞆・一口町方衆」応援プロジェクトの寄附金を活用し、鞆の町に残る伝統的建造物(古民家)を日本家屋の伝統工法によって修理。鞆ならではの特徴を活かした意匠やデザインを保存・再生するために、伝統的建造物群保存地区内で建物の所有者が実施する保存修理、修景費用の一部を補助します。

データ 後山山荘、福山市鞆町後地
お問い合わせ先 後山山荘倶楽部 http://ushiroyamasansou.com
見学の申し込みはHPの専用フォームより http://ushiroyamasansou.com/visit