今昔の歴史と文化 暮らしが織りなす、国内随一の近世港町「鞆の浦」

音楽学者

千葉 優子

東京都

プロフィール

一般財団法人宮城道雄記念館資料室室長、慶應義塾大学ほか講師。

『箏を友として-評伝宮城道雄』(アルテスパブリッシング)で第28回ミュージックペンクラブ音楽賞、『ドレミを選んだ日本人』で第23回ヨゼフ・ロゲンドルフ賞受賞。

『箏曲の歴史入門』『日本音楽がわかる本』(以上、音楽之友社)ほか著書論文多数。

また、NHKラジオ第2放送「カルチャーアワー」の講師など放送や講演活動も行う。

現在、『宮城道雄著作全集』(全5巻)の編集に勤しむ。

キラキラと輝く瀬戸内海をのぞむ、
 風情あふれる町 ― 鞆

お正月になると必ず耳にする《春の海》は、昭和5年〈1930〉の歌会始の勅題「海辺の巌」にちなんで作曲され、1月2日に広島放送局〈現NHK広島〉から放送初演された。

作曲者は宮城道雄〈1894-1956〉。宮城は、瀬戸内海を船で通った折に、島々に桃の花が美しく咲く様子を聞き、静かな波の音、鳥の声など、まさしく蕪村の「春の海ひねもすのたりのたりかな」の句のような春ののどかな瀬戸内海の雰囲気を感じて作曲したと随筆に記している。

鞆は宮城の先祖の地。

「家中がよるとさわると、鞆の言葉で鞆の話をし」鞆を故郷のように思うと随筆「鞆ノ津」に記す。10冊もの随筆集が出版され、川端康成らから高く評価された。

南禅坊には、宮城の祖父母の墓があり、碑が建てられている。鞆城山公園には宮城道雄のブロンズ像が建ち、鞆の浦歴史民俗資料館には宮城道雄コーナーもある。

鞆の人々が宮城へ寄せてくださる思いを深く感じるとともに、タイムスリップしたような街並みに何とも言えない懐かしさを覚え、高台から見える瀬戸内の海のきらめきに、この美しく風情あふれる景観、そして人々の思いを大切にしなければと、鞆を訪ねるたびに思う。