プロフィール
法政大学江戸東京研究センター特任教授
東京大学大学院工学系研究科博士課程修了
イタリア政府給費留学生としてヴェネツィア建築大学に留学、ユネスコのローマ・センターで研修。
専門はイタリア建築史・都市史。建築史学会会長、地中海学会会長、都市史学会会長を歴任。
パレルモ大学、トレント大学等の契約教授を務めた。中央区立郷土天文館館長、国交省都市景観大賞審査委員長他。
著書:
『東京の空間人類学』
(筑摩書房、1985年)
(英訳:Tokyo: A spatial Anthoropology , University of California Press, 1995)
『ヴェネツィア-水上の迷宮都市』
(講談社、1992年)
『都市と人間』
(岩波書店、1993年)
『地中海世界の都市と住居』
(山川出版社、2007年)
『イタリア海洋都市の精神』
(講談社、2008年)
『水の都市 江戸・東京』
(編著、講談社、2013年)
『水都ヴェネツィアーその持続的発展の歴史』
(法政大学出版局、2017年)
受賞歴:
サントリー学芸賞
地中海学会賞
パルマ「水の書物」国際賞
アマルフィ名誉市民
ANCSAアルガン賞他
内奥の聖域、歴史的町並み、路地群、港の空間。全ての宝物を磨くまちづくりを期待しています。
もう40年近く前のこと、イタリア人の友人とともに初めて鞆の浦を訪ねた時の感動を、今も思い出します。小さな入江の海に開き、背後を緑に包まれた山や丘で囲われた、その格好の地形を活かし、港町のコンパクトな都市空間が形づくられているのです。もちろん、その友人も、美しい日本の港町の姿に驚いていました。
私はイタリアを中心に地中海の都市を研究しているので、港町を訪ねる機会が多くあります。その眼からしても、港町として鞆の浦がもつ歴史的、文化的、そして環境的な価値は超一級です。
そもそも世界中どこでも、古い港の構造は時代の要請に合わせて変化し、残りにくいものでした。ところが鞆の浦には、中世の町の構造を内側にとどめつつ、海側に堂々とつくられた近世の港の空間が実によく受け継がれているのです。だからこそ世界的に見て貴重なのです。
近代という時代は、陸の論理に立ち、水の重要性を忘れました。船で結ばれた瀬戸内の港町ネットワークもなくなりました。でも、時代が一回りした今は、違います。海が蘇えり、水辺に人が戻りつつあります。世界のまちづくりの成功例の多くが水辺を舞台としています。
これほど豊かな歴史的資産を見事に受け継いできた鞆の浦には、無限の可能性があります。背後に分布する寺院や神社の聖域、重伝建地区を中心とする暮しの場としての歴史的町並み、港に通じる路地群、そして港の空間。これらすべての宝物を活かし、磨き上げることが必要です。そのためには市民、行政が一体となって学び、知恵を発揮し、発想を広げ、行動することが求められます。今後のまちづくりの素晴らしい成果を心より期待しています。